解説
この条項は、権利の不放棄条項(Non-Waiver、No Waiver)とも呼ばれます。契約に基づき発生する権利や利益を相手方に対して行使しないことがたび重なると権利放棄を行ったとみなされるため、仮に実行しなくても権利を放棄したことにならないことを規定しています。
例えば、「報酬の支払いが遅れた場合は、受託者は解除できる。」と規定していた場合、支払いが履行期限から1日遅れた場合でも解約権が発生します。ところが、この権利を行使せず放置していますと、英米法の権利放棄の原則(doctrine of waiver)あるいは禁反言の原則(doctrine of estoppel)によって,その後の解約権行使が妨げられることになりかねません。これらの原則は、権利を行使しなかったことによりその権利を放棄したものとみなし、または、ある行動(解約権の行使)をしようとするとき、過去にそれと矛盾することをしていた場合はその行動をできなくする考え方です。この原則を制限するために、本規定を入れることがあります。また、権利放棄の有無をより明確にするため、「その当事者が書面で明示的に(放棄を)しない限り」という表現を入れ方がより放棄の有無が明確になります。
なお、準拠法が日本法の場合は、このような規定がなくとも権利行使や履行請求をしなかったという理由だけで権利放棄等が認められることは少ないので、規定されていないことが一般的です。もっとも、日本法人の一般的な取引を想定すると、規定していることが不利益をもたらすものではないと考えられます。外国の企業などとの取引において本規定を入れるか否かが検討される場合は、準拠法上不要だから削除するということではなく、敢えて削除しておく必要性があるかを検討すると良いでしょう。
例文:必要最小限の内容を含む例文
The failure, delay or omission of either party to perform any right or remedy provided in this Agreement shall not be a waiver.
【和訳】いずれかの当事者が本契約に規定されている権利または救済措置を履行しなかった場合、またはその遅延や不履行があったとしても、権利放棄にはならない。